ニホンゴムズカシイネ

今日は、過去に何度か記事にしている「書籍を、裁断→スキャンして、電子データにする行為」(以下「自炊」と表現する)について、少し突っ込んで考えてみました。

きっかけは、今日のニュースで紹介しようと思っていた記事と友人のエントリーが重なったこともあり、著作権のあり方について少し調べてみたくなったからです。ちなみに、わたし自身は法学部卒でも何でもないので、あまり専門的なお話は出来ないことをあらかじめ申し上げておきます。


紹介しようと思っていた記事はこちら
書籍を「裁断→スキャン」して電子書籍端末で読むメリットとデメリット

この記事には、自炊を行っている著者自身が、「既存書籍を「自炊」するメリットとデメリットを、なるべく多彩な視点からまとめて」みたものであり、単に作業としての自炊のメリット・デメリットだけでなく、その行為が及ぼす影響のメリット・デメリットについても言及しているのが、非常に興味深かったです。


また、友人のエントリーでは、わたしのニュースでも取り上げたことのある「BOOKSCAN」というブックスキャン代行サービス会社についてのサービスが、適法なのかについての議論と、書籍データ電子化の今後の展望について語られており、これまた興味深く読ませてもらいました。
エントリーについては割愛させてもらいますが、参考にしていたリンク先の記事をいくつか紹介しておきます。
本のスキャン代行サービス『BOOKSCAN』に漫画家が激怒。でもちょっと勘違いしている?
残念ながら現状では複製代行サービスは難しい


まずは、著作権法の中身から調査開始。私的使用のための複製についての条文は第30条にありました。


第30条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
1.公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合
2.技術的保護手段の回避(技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第120条の2第1号及び第2号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合
3.著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合《改正》平11法077
《改正》平21法0532 私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く。)であつて政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であつて政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。


うーん、日本語って難しいですね。要点だけまとめると
個人的または家族や友人などの間で使用する時には、その人が複製してもいいよ。でもビデオテープレコーダやDVDレコーダは使っちゃダメだよコピー機は今の所セーフ)
コピーガードがかかってるのを、解除して複製しちゃダメだよ(DVDにかかっているのは、アクセスコントロールなのでこれに該当しないようです)
デジタルメディアを用いて録音、録画する場合には、利用者は一定の補償金を払ってね(現状は、デジタルメディアの商品価格に、あらかじめ補償金が上乗せされています)

といったところでしょうか。まとめるために、参考にした文献は(こちら


次に、実際に私的使用のための複製についての判例が、実際にあるかどうかを調べてみました。
古くは、アメリカでソニーが訴えられたベータマックス訴訟という争いがあり、その判決は録画機器に関する著作権と新技術、私的複製に関する一つの指針となったようです。
日本では「録画ネット事件」や「まねきTV事件」など、TV番組の配信サービスにからんだ訴訟で一部言及されているようですが、書籍の複製についての判例は、わたしが調べた限りでは見当たりませんでした。
(参考にした記事はこちら

ちなみに、「録画ネット事件」では、私的複製の主体について「業として録画代行サービスを行うことは複製権を侵害する行為である」という判断をしたみたいです。(地裁の裁判官の講演から。出典はコピライト2005.9より)


以上の情報から判断すると、ブックスキャン代行サービス会社の提供するサービスについては、残念ながら「私的使用のための複製」からは逸脱しているようにも見えます。
ただ、あくまで「録画ネット事件」ではTV番組についての複製(録画)の議論であり、地裁レベルでの判断であることから考えると、これをもって白か黒かを断定するには材料不足だと思います。
他にも、「事業者がユーザの指示の下、手足として複製していると評価されるなら、それは私的の範囲内であり、ユーザの行為といえるのではないか。」といった手足理論の解釈も存在しますので、最終的な結論はなかなか難しいようです。(参考は、こちら


法律論で考えていくと結論は出そうにありませんので、最初の記事(書籍を「裁断→スキャン」して電子書籍端末で読むメリットとデメリット)をヒントに個人的な結論を出したいと思います。

情報をまとめると
・購入した書籍を、私的の範囲で自炊して利用するのは全く問題ない。
著作権者(出版社)にとっても、自炊後のバラバラになった本は紙ゴミとして処分されるため、いわゆる「中古での循環」からは外れることによるメリットがある。
・スキャン代行サービス会社が、個人の自炊の延長として同じ作業をする分には、同様にメリットが無いとは言えない(法律論は置いておいて)。
・電子データが大量に存在する事により、不特定多数にデータが配布されてしまう危険度(デメリット)が増す。
・現状すでに、電子データはかなり氾濫している。

です。
これらの事から、著作権者(出版社)が、利用者の納得できる価格の電子書籍サービスを速やかに開始しない限り、根本的な問題は解決しない」という結論になりました。

デジタル技術の進化により、個人レベルでの電子データ化が、かなりの水準でできるようになった昨今。出版業界のピンチをチャンスに変える意味でも、もう少し真剣にかつ速やかに、読者に対するサービスを充実してくれることを願っています。